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名古屋地方裁判所 昭和51年(行ウ)13号 判決

原告 野松建設株式会社更生管財人 村本勝

被告 愛知県新栄県税事務所長 加藤良三

右訴訟代理人弁護士 佐治良三

同 太田耕治

同 後藤武夫

同 大山薫

同 建守徹

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

(原告)

被告が野松建設株式会社に対し昭和五〇年八月二三日付でなした不動産取得税金八四万四、三八〇円の賦課処分を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

との判決。

(被告)

主文同旨の判決。

第二主張

(原告)

請求原因

一  訴外野松建設株式会社(以下、野松建設という)は不動産の設計販売業者であるが、昭和五〇年一一月一九日名古屋地方裁判所により会社更生開始決定をうけ、同日原告がその更生管財人に選任された。

二  被告は昭和五〇年八月二三日野松建設に対し、野松建設が訴外西松不動産株式会社(以下、西松不動産という)から別紙物件目録記載の建物(以下、本件不動産という)の所有権を取得したとして、地方税法七三条の二に基づき不動産取得税金八四万四、三八〇円の賦課処分(以下、本件賦課処分という)をなした。

三  しかしながら、野松建設は本件不動産の所有権を取得したことがない。本件賦課処分は、野松建設が本件不動産の取得者であるとの誤った認定に基づく違法なものである。

四  よって、原告は右野松建設の更生管財人として、被告のなした本件賦課処分の取消しを求める。

(被告)

請求原因に対する認否

請求原因第一、二項を認めるが、同三、四項は争う。

被告の主張

一  野松建設は次のとおり本件不動産の所有権を取得した。

1 野松建設は分譲マンションの建設・販売を企画し、昭和四八年六月一日訴外西松建設株式会社(以下、西松建設という)との間で別紙物件目録記載の土地上に同目録記載のマンション(以下、本件マンションという)を建築させることを目的とする請負契約を締結したが、右建築工事の施行中である同年一〇月三一日に、野松建設、西松建設および西松不動産の三者は、右請負契約上の野松建設の権利義務を西松不動産に承継させ、かつ野松建設所有の土地(本件マンションの敷地)を西松不動産に譲渡する旨の契約を締結した。

2 右契約に基づき、西松不動産は本件マンションの建築完成と共にその所有権を取得したのであるが、昭和四九年四月五日、西松不動産と野松建設は、本件マンションとその敷地(以下、これらを本件物件という)の分譲に関し、次のような契約を締結した。

(一) 西松不動産は本件物件全部を総額金三億八、〇〇〇万円で野松建設に売渡し、野松建設はこれを中間省略登記の方法によって直ちに顧客に対して分譲販売するものとする。但し、西松不動産は野松建設と各顧客に対し、本件物件につき所有権を留保するものとし、約定金員の内入払いがあった場合、西松不動産が直接顧客に分譲物件の引渡しをなすと同時に、当該物件の所有権を個々に野松建設に移転し、野松建設はさらにこれを顧客に移転するものとする。

(二) 代金三億八、〇〇〇万円の支払いは、野松建設が顧客に対して本件物件を分譲したつど、約定の金員を順次内入払いをなすことにより、これをなすものとする。

(三) 西松不動産は、野松建設から約定の売買代金の内入払いがあった場合、直ちにそのつど当該物件を直接当該買受顧客に引渡すとともに、同人のため必要な登記手続に協力するものとする。登記手続は、建物部分については、当該買受顧客名義にて直接その専有部分に対する区分所有権の保存登記手続をなすものとする。

3 野松建設は、右契約に基づき本件物件の分譲を開始したが、顧客との間に売買契約が成立したときに使用される売買契約書の第一条には「甲(野松建設)はその所有にかかる物件を乙(顧客)に売渡し、乙はこれを買受けるものとする。」旨記載がなされており、野松建設が本件不動産の所有権を取得していることが明記されているのである。その他、右売買契約書第五条(所有権移転の時期)および第六条(瑕疵担保の処理)もまた、野松建設が本件不動産の所有者であることを前提として始めてこれを理解することができるものである。さらに、野松建設はマンションの買主との間で、本件物件および附属施設の管理とその使用について、「建物の区分所有等に関する法律」二三条に基づく規約を定め、かつ管理委託契約を締結しているのである。

4 野松建設は、右のような方法で、別紙「マンション分譲表」記載のとおり、昭和四九年四月一六日から同年一〇月一六日までの間に合計二三戸のマンション(本件不動産)を分譲し、前記契約により、そのつど西松不動産から当該分譲物件の所有権を取得したものである。そして野松建設が各物件の所有権を取得した時期は、前記契約により、分譲物件が西松不動産から各顧客に引渡された時期と同一であるから、それを日時で特定することは被告としては困難であるが、それぞれマンションの売買契約締結の日と顧客のために所有権保存登記がなされた日との間に存することは明白である。

二  地方税法七三条の二第一項においては、「不動産取得税は、不動産の取得に対し、当該不動産所在の道府県において、当該不動産の取得者に課する。」と定められている。従って、不動産取得税の課税対象が「不動産の取得」であることは明白であり、同条にいう「不動産の取得」とは「不動産所有権の取得」を意味するものである。

三  そこで、被告は、昭和五〇年八月三日野松建設に対し、野松建設が本件マンション二三戸(本件不動産)の所有権を取得したことを理由として、不動産取得税金八四万四、三八〇円の本件賦課処分をなしたのである。

よって、本件賦課処分に違法な点は存しない。

(原告)

被告の主張に対する認否と反論

一  本件不動産についての不動産取得税額が被告主張どおりであることは認めるが、野松建設が本件不動産の所有権を取得したことは否認する。

二  本件不動産について、野松建設と西松不動産との関係は以下のとおりである。

1 野松建設は本件マンションの建設・販売を企画し、用地を取得し、昭和四八年六月一日西松建設に依頼して建設に着手したのであるが、その建設途上において資金繰りに窮し、独力で建設続行が不可能となったので、同年一〇月三一日右工事の完成を西松建設に全面的に依存することとなり、同五〇年二月二〇日右工事は完了した。そして、野松建設は本件マンションの敷地の所有権を右西松建設の子会社である西松不動産に譲渡し、また本件マンションも西松不動産の所有とされることとなった。

2 野松建設は昭和四九年四月五日西松不動産との間で、本件マンションの分譲販売に関し、野松建設が仲介してユーザーに売却する旨の契約をした。

右契約によれば、本件マンションの所有者は西松不動産であり、分譲物件の引渡は西松不動産から顧客に直接引渡され、登記手続も西松不動産より顧客に対し所有権保存登記に必要な手続をすることになっており、さらに野松建設が右物件を顧客に売る場合には西松不動産が物件所有者であることを明示することを定められているのである。

従って、野松建設は、本件不動産の仲介をなしたにすぎず、西松不動産からその所有権を取得したことはない。

二  被告は、本件不動産の所有権は西松不動産―野松建設―顧客へと移転され、中間省略により登記手続がなされた旨主張する。しかし、被告の主張によるも、野松建設による本件不動産の所有権取得時期は、顧客が西松不動産から各物件の引渡を受けた時期と同じであり、右物件の引渡は西松不動産から直接顧客に対して行なわれるのであり、そして右物件の引渡があるまではその所有権は西松不動産に留保されているのである。従って、本件不動産の所有権は西松不動産から直ちに顧客に移転しているのであり、この中間にあって野松建設が所有権を取得することはありえない。そして、登記手続においても、敷地部分については西松不動産から直接顧客に対し所有権移転登記がなされ、建物部分については西松不動産より直接顧客名義で区分所有権保存登記手続がなされているのであって、本件不動産所有権の移転の過程を正しく示しているのである。被告主張の如き中間省略登記がなされた事実はなく、西松不動産との契約書中にも、敷地部分について中間省略登記の方法によるとは記載されていないのである。

三  仮に、被告主張の如く、顧客が不動産所有権を取得すると同時に野松建設も所有権を取得するといってみたところで、野松建設の取得した不動産所有権なるものの内容は、権利といえる内容は何一つ備えておらず、すなわち一片の使用・収益・処分権をも内包していない全く空虚な「無」の状態とでもいうべきものであり、これを他から侵害されたからといって損害賠償の請求をすることも出来ない状態のものである。右のような内容の不動産所有権の取得をもって、不動産取得税の課税権発生原因たる「不動産の取得」に当るとは到底いえない。

四  被告は、野松建設と西松不動産との間の契約書中にある「所有権を野松建設に移転し、野松建設が更にこれを顧客に移転するものとする。」との文言を捉えて課税原因とするものであるが、右野松建設の所有権の取得なる概念は、単に言葉としてあるのみで、何らの実態のない全くの虚像であることは前述のとおりである。そして、西松不動産との間で右契約書が作成された事情は次のとおりである。

野松建設は右契約が締結されるまでの間多大の努力を傾注し、資金を投入し、多額の金利も支払って来たのであるが、会社の損失を少しでも喰い止めたいと考え、西松不動産に本件マンション(四〇戸)を同社の販売代理として顧客に販売させて貰うことになった。但し、宅地建物取引業法による手数料三パーセント余では、報酬としては低額過ぎて、販売のための宣伝広告費、人件費等を支払って幾分の販売利益を出すことに無理があり(当時同業の他社の販売手数料も一〇パーセントを超えていた)、販売手数料を西松不動産との間で約一一・七パーセントと取り決めて販売するに至ったのである。しかし、野松建設は西松不動産との約束の四か月間に漸く本件二三戸のマンションを販売することが出来たのみであり、右四か月の期間経過後は、西松不動産は残余一七戸のマンションを訴外大京観光株式会社(以下、大京観光という)に販売させたのであるが、その手数料も一〇パーセントを超えていたのである。

右のような経緯であって、前記契約書は、野松建設が一一・七パーセントの販売手数料を取得する目的のみをもって締結作成されたものであって、他意はないのである。

(被告)

被告の反論

一  不動産取得税は、財貨の移転という事実に担税力を認めて賦課する流通税の一種であって、不動産の取得者がその不動産を使用・収益・処分することによって得られるであろう利益に着目して課せられるものではない。従って、野松建設が所有権を取得していた期間の長短やその取得した所有権の内容いかんを理由として本件賦課処分の違法をいう原告の主張は、それ自体失当である。

二  宅地建物取引業者が不動産取引に関与する方法としては、売買等の代理または仲介をなす方法と、みずから売買等の当事者となる方法がある。前者の方法がとられる場合には、業者が当事者から受ける報酬がその収入となのであるが、その率は約六パーセントを超えることができないのである(宅地建物取引業法四六条、昭和四五年一〇月二三日建設省告示第一五五二号)。原告主張の如く、野松建設が一一・七パーセントの報酬(販売手数料)の取得を目的として西松不動産との本件契約を締結したとすれば、右行為は、監督行政庁から業務停止を命ぜられ(同法六五条二項二号)、場合によっては免許の取消原因ともなりうる(同法六六条九号)のであり、業者が右のようにその死命を制せられる危険のあるような行為に及ぶことは通常ありえないところであるから、本件契約条件の解釈に関する原告の主張は誤りである。

なお、原告は、西松不動産が残余一七戸のマンションの販売を訴外大京観光に委託したことを前提として、その手数料も一〇パーセントを超えていたと主張する。しかし、西松不動産は残余のマンションの販売を大京観光に委託したのではなく、大京観光は西松不動産からこれを買受けて顧客に転売したものである。従って、大京観光が一〇パーセントを超える収入を挙げたとしても、右は何ら違法ではなく、これをもって原告の有利に援用することは失当である。

第三証拠《省略》

理由

一  請求原因第一、二項の事実および本件不動産についての不動産取得税額が被告主張のとおりであることは、当事者間に争いがない。

そこで本件においては、野松建設が西松不動産から本件不動産を取得したか否かが唯一の争点であるので、この点について以下判断する。

二  《証拠省略》を総合すると、野松建設と本件不動産との関係について以下のことを認めることができる。

1  野松建設は、分譲マンションの建設・販売を企画し、その用地を取得して、昭和四八年六月一日西松建設との間で本件マンション(第二東山ハイツ)の建築を目的とする工事請負契約を締結し、建設に着手したのであるが、その建設途上において資金繰りに窮し、独力で建設を続行することが不可能となった。そこで、野松建設、西松建設および西松不動産の三者は、昭和四八年一〇月三一日右請負契約上の野松建設の権利義務を西松不動産に承継させ、かつ野松建設所有の土地(本件マンションの敷地)を西松不動産に譲渡する旨の契約を締結した。

2  右契約に基づき、西松不動産は本件マンションの建築完成と共にその所有権を取得したのであるが、昭和四九年四月五日、西松不動産と野松建設は、本件マンションとその敷地(本件物件)の分譲販売に関して次のような内容の契約書を作成し、その内容どおりの契約(以下、本件契約という)を締結した。

(一)  西松不動産は、本件物件全部を総額金三億八、〇〇〇万円で野松建設に一旦売渡し、野松建設はこれを中間省略登記の方法により直ちに顧客に対して分譲販売するものとする。但し、西松不動産は、野松建設と各顧客に対し、本件物件につき所有権を留保するものとし、後記(六)の約定により西松不動産が直接顧客に分譲物件の引渡をなすと同時に、当該物件の所有権を個々に野松建設に移転し、野松建設はさらにこれを顧客に移転するものとする(契約書第三条)。

(二)  野松建設は、本契約日より四か月以内に本件物件の販売促進に努めるものとし、四か月経過時において販売未了部分がある場合には、その未了部分については当然本売買契約が一部解除となったものとみなすものとする(同第四条)。

(三)  代金三億八、〇〇〇万円の支払いは、野松建設が顧客に対して本件物件を分譲したつど、次の約定により順次内入払いをなすことにより、これをなすものとする(同第五条)。

(1) 野松建設と顧客との間に売買契約が成立した後、顧客から野松建設に対して当該買受物件に対する所定の手付金または内金の交付があったときは、右交付金員の八七パーセントに相当する金員を直ちに西松不動産に引渡す。

(2) 顧客から野松建設に対して当該買受物件に対する残金の支払いがあったときは、(1)により西松不動産が交付を受けた金員と合わせて当該物件の売買価格に満つるまでの金員を直ちに西松不動産に引渡す。

(3) 顧客が全部即金払いをなすときは、直ちに当該物件の売買価格相当額を西松不動産に引渡す。

(四)  野松建設は、西松不動産との間の本件売買契約が代金後払いであることおよび顧客に不測の損害を与えることを防止することのため、次の事項を遵守しなければならない(同第六条)。

(1) 本件物件販売にあたり作成する宣伝のためのパンフレット類および顧客との間に締結すべき契約書類等は、すべて事前に西松不動産に提示してその指示に従うこと。

(2) 顧客との間の契約成立時は勿論のこと随時西松不動産の求めに従い、販売進行状況を報告すること。

(3) 顧客との契約にあたり、西松不動産が所有者、野松建設が売主であることを顧客に説示すること。

(4) 西松不動産が野松建設に代って直接顧客から手付金または内金および代金を代理受領する権限を与えられていることを顧客に説示すること。

(五)  前記(三)、(四)の目的を達するため、西松不動産と野松建設は、名古屋相互銀行覚王山支店および瀬戸信用金庫西山支店に西松不動産名義の口座を設けるものとし、直ちにその手続をとり、前記(四)によって西松不動産が野松建設の代理受領権者として顧客から受取る金員および野松建設が西松不動産の許可を得て自己が直接顧客から収受する金員は、直ちに一旦右口座に入金し、双方が相互に右入金を確認後、直ちに前記(三)記載の約定によりそれぞれ分配受領するものとする(同第七条)。

(六)  西松不動産は、野松建設と顧客との間で本件物件の分譲販売契約が締結され、野松建設から前記(三)記載の約定金員の内入払いがあった場合、直ちにそのつど当該物件を直接当該買受顧客に引渡すとともに、同人のために必要な登記手続に協力するものとする。登記手続は次の方法によって行う(同第八条)。

(1) 建物部分については、当該買受顧客名義で直接その専有部分に対する区分所有権の保存登記手続をなすこと。

(2) 敷地部分については、西松不動産から直接当該買受顧客に対して所有権の持分移転登記手続をなすこと。

3  野松建設は愛知県知事より宅地建物取引業の免許を受けている宅地建物取引業者であり、宅地建物取引業法によれば宅地建物取引業者が不動産の代理または仲介について建設大臣の定める額(売買代金額の約六パーセント)を超える報酬を受けてはならない定めになっているため、野松建設としては、本件マンションの分譲について約一一・七パーセントの報酬を得ることを目的として西松不動産と本件契約を締結したものである。

4  野松建設は、本件契約に基づき本件物件の分譲を開始したが、顧客に対しては、本件物件の所有名義は現在西松不動産であるが、野松建設がこれを買受けており、自己が売主である旨説明していた。

そして、顧客との間に作成された売買契約書には、その第一条に「甲(野松建設)はその所有にかかる左記土地および建物その他の物件を乙(顧客)に売渡し、乙はこれを買受けるものとする。」と記載するなどして、野松建設が当該売買物件の所有権を取得している旨を明記していたのである。

5  野松建設は、右のような方法で、別紙「マンション分譲表」記載のとおり、昭和四九年四月八日頃から同年七月二三日頃までの間に合計二三戸のマンション(本件不動産)を分譲販売し、前記西松不動産との本件契約どおりに、各顧客に対して分譲物件の登記ならびに引渡がなされた。

6  しかし、野松建設は西松不動産との契約期間である四か月以内に本件マンション(四〇戸)のうち二三戸を分譲販売したのみであったので、残余の一七戸については、前記約定により契約解除され、西松不動産から大京観光に譲渡されて、大京観光がそれぞれ分譲販売した。因みに、大京観光に対しても、右一七戸分につき被告より不動産取得税が賦課せられている。

以上の事実が認められ(る。)《証拠判断省略》

三  右の認定事実によれば、野松建設は西松不動産から本件不動産の所有権を売買により一旦取得したうえこれを顧客に分譲販売したものであることが認められる。そして、地方税法七三条の二第一項にいう「不動産の取得」とは「不動産所有権の取得」の意味に解すべきであるから、野松建設は本件不動産所有権を取得したことにより、同法条にいう「不動産の取得」をしたものというべきである。

原告は、野松建設は売買の仲介をなしたものであり、西松不動産との本件契約書は野松建設が約一一・七パーセントの仲介手数料を得るため形式的に作成されたにすぎないものであると主張する。しかし、西松不動産と野松建設との間において、本件契約書どおりの内容の契約が締結されたことは前記認定のとおりであり、本件契約書が税務対策等のため形式的に作成されたにすぎないものと認めるべき証拠は存しない。すなわち、宅地建物取引業者が不動産売買に関与する方法としては、売買の代理または仲介をなす方法と、みずから売買の当事者となる方法とがあるところ、本件における野松建設は、宅地建物取引業法に定める率以上の報酬を得るため、自己の意思に基づき、後者の方法、すなわちみずから売買の当事者となり、不動産の所有権を取得する方法を選択したものというべきである。西松不動産との本件契約書において、「西松不動産は本件物件を野松建設に売渡し、野松建設はこれを中間省略登記の方法により直ちに顧客に対して分譲販売するものとする。(第三条)」旨記載されていることは、その実態を正確に示しているものであるということができる。

原告は、また、本件不動産の所有権は分譲物件が顧客に引渡されるまで西松不動産に留保されていたこと、そして分譲物件の引渡は西松不動産から直接顧客に引渡され、その登記手続においても、敷地部分については西松不動産から顧客に直接移転登記がなされ、建物部分については顧客名義の所有権保存登記がそれぞれなされたこと等から、野松建設が取得したとされる不動産所有権の内容は実態のない空虚なものであり、不動産取得税の課税原因たる「不動産の取得」に当らない旨主張している。しかし、物権の変動は当事者の意思表示のみでその効力を生ずるものであるところ、野松建設は本件不動産の所有者である西松不動産との間において、売買によりその所有権を取得する旨の合意をなしたものであるから、その所有権の取得になんらの障害もない。また、本件不動産の引渡および登記手続が原告を経由しないで西松不動産から直接顧客に対してなされたことは、いわゆる中間省略の方法によってなされたものであって、野松建設の所有権取得の認定をいささかも妨げるものではない。そして、不動産取得税は、いわゆる流通税に属し、不動産の移転の事実自体に着目して課せられるものであって、不動産の取得者がその不動産を使用・収益・処分することによって得られるであろう利益に着目して課せられるものではないから、地方税法七三条の二第一項にいう「不動産の取得」とは、不動産の取得者が実質的に完全な内容の所有権を取得するか否かには関係なく、所有権移転の形式による不動産の取得のすべての場合を含むものと解するのが相当である(最高裁判所昭和四八年一一月一六日判決、民集二七巻一〇号二三三三頁参照)。従って、野松建設が取得した本件不動産所有権の内容が、その所有期間が時間的に短かく、その処分等があらかじめ約定により拘束されているなど制限されたものであったとしても、これが移転の事実がある限り、右法条にいう「不動産の取得」というに妨げないものといわなければならない。

結局、野松建設は本件不動産を取得したと認められるのであって、本件賦課処分には原告主張の瑕疵は存在しないものである。

四  よって、原告の本訴請求は理由がないから失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決した。

(裁判長裁判官 藤井俊彦 裁判官 窪田季夫 山川悦男)

〈以下省略〉

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